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2016年8月25日

 記事のカテゴリー : リポート笠間掲載コンテンツ

●AAS-in-Asia 2016 京都大会ラウンドテーブル「The Digital Resource Landscape for Japanese Studies」報告○江上敏哲(国際日本文化研究センター)【2016.6.25・於同志社大学】

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しばらく実験的に、各学会大会等で開催されたシンポジウムのレポートを掲載していきます。
ここに掲載されたテキストは、小社PR誌『リポート笠間』の最新号に再掲載いたします。

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AAS-in-Asia 2016 京都大会 
ラウンドテーブル
「The Digital Resource Landscape for Japanese Studies」報告

○江上敏哲(国際日本文化研究センター)


日にち 二〇一六年六月二十五日(土)
[スピーカー]
福島幸宏(京都府立図書館)
バゼル山本登紀子(ハワイ大学マノア校図書館)
イーデン・コーキル(元・ジャパンタイムズ社)
マクヴェイ山田久仁子(ハーバード・イェンチン図書館)
是住久美子(京都府立図書館)
[コーディネータ]
江上敏哲(国際日本文化研究センター)


 日本資料について、デジタル化が急務である、と言う。情報発信が肝要である、と言う。では、その成就に必要なものは何か。技術か、制度か、あるいは資金的基盤だろうか。

 本稿は、筆者がコーディネートした、AAS-in-Asia 2016 京都大会(会場:同志社大学)にて行われたラウンドテーブルのひとつ「The Digital Resource Landscape for Japanese Studies」(二〇一六年六月二十五日)の報告である。

 AAS(Association of Asian Studies)とは、アジア地域を研究対象とする北米の学会であり、毎年三月頃に北米で年次大会を開くほか、二〇一四年からはアジアの各都市でAAS-in-Asiaと称する大会を開催している。
 今回の二〇一六年京都大会は同志社大学を会場に、北米・ヨーロッパや日本、アジア各地から約一、二〇〇人が参加し、四日間で二〇〇件以上の分科会が設けられた。日本・中国などの東アジア、南アジア、東南アジアなどのアジア各地域を対象に、人文・社会系その他のさまざまな分野の研究発表とディスカッションがおこなわれた。

 この学会の参加者の多くは研究発表を目的とした研究者・大学院生であったが、当ラウンドテーブルでは北米の日本研究ライブラリアンや日本のライブラリアン、アーキビスト、情報専門家等をスピーカーとしてコーディネートした。日本の文化資源・学術資料とそのデジタルアーカイブ構築、オープンデータの活用をテーマとして、研究発表というよりはむしろ実務を行う立場からの発表と意見交換の場をつくるという試みであった。
 各スピーカーとその発表内容は以下の通りである。


●「歴史資料とデジタル化」福島幸宏(京都府立図書館)
 東寺百合文書webを例に、歴史資料のデジタルアーカイブ化とその公開・活用を、日本社会における災害や地方消滅等の問題をふまえて論じたもの。
●「The Digital Resource Landscape for Japanese Studies: Spaces for Change and Growth Collaboration & Collective Solutions @ the University of Hawaii at Manoa Library」バゼル山本登紀子(ハワイ大学マノア校図書館)
 阪巻・宝玲コレクションのデジタルアーカイブ構築における、琉球大学附属図書館との国を越えた連携やプロジェクト遂行についての報告。
●「My journeys into the digital archive of The Japan Times」イーデン・コーキル(元・ジャパンタイムズ社)
 英字新聞「JapanTimes」のデジタルアーカイブについて、その機能と内容の紹介。
●「Today's Challenge: The New Digital Haystack」マクヴェイ山田久仁子(ハーバード・イェンチン図書館)
 ハーバード大学における日本資料のデジタル化とそのディスカバリー対応や、日本におけるデジタルアーカイブ資料の検索、IIIF等の新ツールについて。
●「ライブラリアンによるWikipedia Townへの支援、オープンデータの作成」是住久美子(京都府立図書館)
 自己学習活動グループ「ししょまろはん」によるWikipedia Town支援の実際や、オープンデータの作成・公開とその活用に関する報告。

※なお、各者のプレゼン資料および当日の様子を録画した動画を、下記のページにアップロードしているので、詳細はそちらを参照していただきたい。

サイト: egamiday_wiki
http://egamiday.sakura.ne.jp/wiki/「The_Digital_Resource_Landscape_for_Japanese_Studies」


 詳細は各プレゼン資料に譲り、ここでは当ラウンドテーブルのコーディネータであった筆者の視点から、このラウンドテーブルの狙いと日本資料のデジタル化が抱える課題について述べたい。

 日本資料のデジタル化が進まず不足がちであること、あってもその検索・発見やアクセスに難が多いことについては、内外から多く指摘されている(拙著『本棚の中のニッポン』(笠間書院、二〇一二年を参照)。デジタル環境の整備は、デジタルアーカイブにしろオープンデータにしろ、特に国を越えてアクセスしようとする者には必要不可欠である。昨今では海外への情報発信を促進させるという文脈から国内でもデジタルアーカイブの整備やポータルの構築、そのための制度・法律等が盛んに議論されている。しかし、一部少数の機関や提供者だけで取り組んだり、各分野・各業界がめいめいの都合だけで話を進めてみたりしたところで、問題が解決することも望ましいデジタル環境の整備が成就することもないだろう。異なる立場同士で議論を共有し連携し、加えて利用する立場のユーザや社会全体をも巻き込んで、互いに補完し合い刺激し合う必要がある。国・地域や分野・業種がどうあれ、研究者か実務家か、提供者か利用者かがどうあれ、そもそもみな同じ情報流通サイクルの上にある以上は無関係ではあり得ない。

 東寺百合文書webのように、どのようなユーザにどのように使われるかが提供の仕方や構築のあり方を左右し得る。阪巻・宝玲コレクションの例では、ハワイと琉球という異なる国・機関同士の連携により、コンテンツに価値がうまれ、課題解決の道が開けている。京都のオープンデータ実践例では、単にデータが公開されているというだけではなく、図書館員と地域住民やIT技術者とのコラボレーションにこそ意義がある。
 異なる地域、異なる立場、異なる職種の者同士が、互いに課題、知見、ニーズを共有し、意見を交換し、連携していくことができるような場の設計が、デジタル環境の整備と同様かそれ以上に重要なことではないか。本ラウンドテーブルはその試みの一端でもあった。

 当日会場には、アジア・欧米各地域の方々、また研究者、アーカイブ関係者、書店・出版関係者など様々な職種の方々、約四〇名にご参加いただいた。時間の管理が甘かったために、それだけの方々とのディスカッションの時間がほとんど取れなかったことが残念である。参加者の皆さまにこの場を借りてお詫び申しあげたい。

 反省点はあったものの、日本資料のデジタル化や情報発信に関する多様な視点からの話題を、様々なバックグラウンドを持つ方々に提供できたことは実に有意義であった。また個人的には、京都を代表するデジタルアーカイブとオープンデータの活動およびその中心的存在を国際会議の場へ届けることができたことを、喜びたい。魅力あるコンテンツを広く効果的に受け手に届けるという意味では、デジタルアーカイブやオープンデータだけでなくこのようなラウンドテーブルの開催にも可能性がある、という思いを新たにした。今後、本ラウンドテーブルの姿勢・視点を引き継いだ第二回、第三回の企画を何らかの場で持つことができれば、と考えている。


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