« 国際寺山修司学会第19回春季大会(2015年5月23日(土)、立正大学品川キャンパス) | メイン | 伝承文学研究会・名古屋例会 平成27年5月例会(平成27年5月17日(日)、東海学園大学 栄サテライトキャンパス 中日ビル9階) »

2015年5月 1日

 記事のカテゴリー : 新刊案内

●松尾葦江編『文化現象としての源平盛衰記』(笠間書院)

このエントリーをはてなブックマークに追加 Clip to Evernote Share on Tumblr LINEで送る

5月下旬の刊行予定です。

70766_k.jpg

松尾葦江編『文化現象としての源平盛衰記』

ISBN978-4-305-70766-6 C0095
菊判・上製・カバー装・728頁+カラー口絵8頁
定価:本体15,000円(税別)

平家物語成立から300年の間に、一体何があったのか。
ひろく院政期から近世まで、平家物語の本文流動から歴史・文学のありようまで、つぶさに検証していく。
日本文学史を考え直すための、新たな提案とも言うべき書。

源平盛衰記を平家物語の異本としてのみ研究するのではなく、ひとつの「文化現象」としてとらえ、院政期から近世へ文化の動的な展開を観測する拠点として、他のジャンル、時代にも考察を及ぼして行こうとする野心的な書。
全体をⅠ文学・Ⅱ言語・Ⅲ芸能・Ⅳ絵画・Ⅴ歴史の五つのセクションに分け、付編「資料調査から新研究へ」を配し、源平盛衰記を中心にこの時代の文学・歴史をトータルに把握しようとする。

執筆者は、松尾葦江/黒田 彰/原田敦史/大谷貞徳/橋本正俊/小助川元太/早川厚一/辻本恭子/セリンジャー・ワイジャンティ/平藤 幸/北村昌幸/小秋元段/伊藤慎吾/池田和臣/橋本貴朗/高木浩明/志立正知/吉田永弘/秋田陽哉/石川 透/工藤早弓/出口久徳/山本岳史/宮腰直人/小林健二/伊藤悦子/相田愛子/岩城賢太郎/伊海孝充/玉村 恭/稲田秀雄/後藤博子/田草川みずき/川合 康/曽我良成/松薗 斉/坂井孝一/高橋典幸/岡田三津子(執筆順)。

-----------
■編者紹介

松尾葦江(まつお・あしえ)

神奈川県茅ヶ崎市に生まれ、東京都の小石川で育つ。1967年、お茶の水女子大学文教育学部卒。1974年、東京大学大学院人文科学研究科博士課程満期退学。その後、鳥取大学教育学部助教授、椙山女学園大学人間関係学部教授などを経て、2002年から2014年まで國學院大学文学部教授。2003年〜2007年まで放送大学客員教授も兼任。1997年、『軍記物語論究』で東京大学の博士(文学)号を取得。専門は中世日本文学、特に軍記物語。
著書は、『平家物語論究』(明治書院、1985年)、『軍記物語論究』(若草書房、1996年)、『軍記物語原論』(笠間書院、2008年)、『源平盛衰記 二』(三弥井書店、1993年)、『源平盛衰記 五』(三弥井書店、2007年)など。
共編著として、『太平記』(大曽根章介と校註・訳、ほるぷ出版、1986年)、『海王宮 ―壇之浦と平家物語』(三弥井書店、2005年)、『延慶本平家物語の世界』(栃木孝惟と共編、汲古書院、2009年)など。
-----------
■ご予約・ご注文は版元ドットコムで
http://www.hanmoto.com/bd/isbn978-4-305-70766-6.html
または、直接小社まで、メールでinfo@kasamashoin.co.jpご連絡いただいても構いません。またはこちらのフォームで、購入希望としてご連絡ください(書名・冊数・お名前・ご住所・電話番号を明記してください)。
http://kasamashoin.jp/mailform.html
-----------

【目次】

源平盛衰記の三百年(松尾葦江)
一 はじめに/二 平家物語の流動過程と源平盛衰記/三 長門切と源平盛衰記/四 その後の源平盛衰記

Ⅰ 源平の物語世界へ

【『源平盛衰記』は『平家物語』のヴァリエーションであるが、従来、文学作品としての『盛衰記』への注目は高いとはいえなかった。だが、近年、『盛衰記』の作品世界が後の芸能や絵画、文学作品に及ぼした影響がかなり大きなものであったことが明らかになってきている。まさに、文学作品としての『盛衰記』の評価や、この作品が誕生したことの意味を問い直す時期が来ているのではないだろうか。そこで本章では、源平の物語としての『盛衰記』の作品世界を、さまざまな角度から読み解いていく。

 1の黒田論文は平家物語諸本に共通する冒頭文の「祇園精舎の鐘」に注目したものである。それは従来自明のものとして顧みられなかったものであるが、平家物語作品世界を貫くテーマに関わる問題であろう。

 現存する『盛衰記』がいかなる構想のもとに成り立っているのかという問題を考える上で、異本との比較や引用資料および語彙の分析は有効な手立てとなる。2の原田論文は、平忠盛と源頼政の説話が一対のものとして描かれていることに注目し、祖本の段階で胚胎していた構想を継承・発展させる手法に『盛衰記』の個性を見る。3の大谷論文は、本文に見られる「分廻」という語彙を糸口に、現存する『盛衰記』本文の完成時期を推定する。4の橋本論文は、『盛衰記』が一字下げの記事として、中世の山王神道において問題を抱えた説を掲載するところに、『盛衰記』の異説への関心のありようを見る。5の小助川論文は、伊豆に流される文覚の護送経路の独自性に注目し、その構想に『盛衰記』全体の文覚像との関連を見る。

 さて、『平家』は平家滅亡の過程を描く物語であると同時に、源頼朝による武家政権樹立の過程を描く物語でもあった。『平家』、ことに『盛衰記』は頼朝をどのような存在として描こうとしたのか。この問題について、6の早川論文は頼朝の伊豆流離説話に注目し、それが「朝家の命によって朝意に背く者たちを追討する頼朝」像の形成に大きく関わっていることを指摘する。7の辻本論文は、『盛衰記』が天武天皇に関する記事を多く引用する背景に、頼朝を天武天皇と重ね合わせて描こうとする作者の構想を読む。8のワイジャンティ・セリンジャー論文は、儀礼としての食事場面の描写に注目し、義仲と頼朝の対照的な描き方が物語の中でどのような意味を持つのかを論じる。また、9の平藤論文は、義仲や平家を滅ぼすことで、兄頼朝の政権樹立に貢献したにも関わらず、後に頼朝によって追われ、討たれてしまう源義経について、頼朝を擁する東国武士団との対立の予兆がすでに屋島合戦の「那須与一」説話に見られることを指摘する。

 ところで、『盛衰記』の特徴である説話引用や教訓的言説の多さは、しばしば『太平記』に近いものと認識されてきたが、一方で、この二作品の間には、質的な違いがあるともいわれてきた。つまり、『太平記』との比較は『盛衰記』の歴史叙述の方法や態度を考える上で、かなり有効な方法といえる。10の北村論文は、両作品に共通して登場する「京童部」による批評が質的に異なることを、盛衰記の「ヲカシ」という評言の用いられ方をもとに検証する。11の小秋元論文は、同じように見える両作品における説話引用の仕方の違いに注目し、それがそれぞれの作品が目指した方向性の違いに起因するものであることを論じる。

 最後に、『盛衰記』の享受の問題として、近世初期軍記への影響を12の伊藤論文が論じる。伊藤は大正時代に叢書に収録されながらも、注目されることのほとんどなかった『源平軍物語』を取り上げ、『盛衰記』との関係や近世文芸における『盛衰記』享受の問題を指摘する。(小助川元太)

1 祇園精舎の鐘攷(序章)―祇洹寺図経覚書―(黒田 彰)
祇園精舎の鐘とは/祇洹寺図経の鐘/祇洹寺図経の鳴り物/居士之院の鐘/他方三乗学人八聖道之院の鐘/祇洹寺図経の楽器/仏病坊、諸仙之院の楽器/鐘、作り物と法文/仏典から/鐘の声、鐘の音/むすび。平家物語の解釈法
2 『源平盛衰記』形成過程の一断面(原田敦史)
一 忠盛の武勇/二 頼政の鵼退治/三 忠盛と頼政―女性をめぐる説話―/四 忠盛と頼政―説話の重層―/五 清盛へ
3 『源平盛衰記』の成立年代の推定―後藤盛長記事をめぐって―(大谷貞徳)
一 はじめに/二 「分廻」という語彙/三 盛衰記の後藤盛長後日譚/四 盛衰記の対象の捉え方/五 おわりに
4 『源平盛衰記』の山王垂迹説話(橋本正俊)
一 はじめに/二 『盛衰記』の山王垂迹説話/三 延慶本の山王縁起との比較/四 中世の山王神道説と『盛衰記』/五 おわりに
5 『源平盛衰記』における文覚流罪―渡辺逗留譚を中心に―(小助川元太)
一 はじめに/二 諸本の構成/三 伊豆への護送経路/四 文覚の悪戯1/五 文覚の悪戯2/六 放免と梶取/七 まとめにかえて
6 頼朝伊豆流離説話の考察(早川厚一)
一 「頼朝伊豆流離説話」とは/二 延慶本・盛衰記の頼朝伊豆流離説話について/三 『曽我物語』の頼朝伊豆流離説話について/四 闘諍録の頼朝伊豆流離説話について
7 『源平盛衰記』の天武天皇関係記事―頼朝造形の一側面として―(辻本恭子)
一 はじめに/二 盛衰記の天武天皇記事/三 源頼朝と天武天皇/四 おわりに
8 『平家物語』に見られる背景としての飢饉―木曾狼藉と猫間殿供応・頼朝饗宴の場面を通して―(セリンジャー・ワイジャンティ)
一 序論『平家物語』に示唆される養和の飢饉/二 木曾義仲の領地蚕食とその討伐/三 「猫間」章段にみられる食の秩序の小宇宙/四 院使をもてなす源頼朝の饗宴外交/五 義仲の形象と戦時の食料不足/六 まとめ  
9 与一射扇受諾本文の諸相(平藤 幸)
一 はじめに/二 与一射扇受諾本文の諸本の様相/三 与一辞退理由についての先学の言及/四 覚一本における一谷合戦から屋島合戦までの義経と頼朝との不和/五 与一射扇受諾の読み本系諸本と語り本系諸本の意義―むすびに代えて
10 『源平盛衰記』における京童部―弱者を嗤う「ヲカシ」―(北村昌幸)
一 はじめに/二 京童部の性格/三 『盛衰記』の京童部/四 『盛衰記』固有の「ヲカシ」/五 おわりに
11 『源平盛衰記』と『太平記』―説話引用のあり方をめぐって―(小秋元段)
一 『太平記』と『平家物語』諸本/二 延慶本における説話引用/三 盛衰記における説話引用/四 『太平記』における説話引用/五 むすび
12 『源平軍物語』の基礎的考察(伊藤慎吾)
一 はじめに/二 書誌的解説/三 構成/四 執筆態度/五 出版事情/六 おわりに/付表 『源平軍物語』『源平盛衰記』対照表

Ⅱ 文字と言葉にこだわって

【 『源平盛衰記』の本文は、どのような性格を持つ本文なのだろうか? 前章に並ぶ論文が『盛衰記』の内容に着目する視点を持つものであるのに対して、本章に並ぶ論文は、『盛衰記』に書かれた文字と言葉に着目する視点を持って、さまざまな角度から『盛衰記』の本文を検討する。

 1の池田論文と2の橋本論文は、盛衰記の本文と重なるところのある「長門切」と呼ばれる古筆切を扱っている。長門切は、本書巻頭の松尾論文でも触れられているように、世尊寺行俊(生年不明〜一四〇七)を伝称筆者として、現在七〇葉ほどの存在が確認されている『平家物語』の断簡である。池田論文では、和紙の原料となった植物が刈り取られた年代を炭素14の含有率を測定することで推定することができることを利用して、長門切の書写年代を推定する。その結果、一二七三年〜一二九九年の間に実年代のある可能性が高く、一二八四年が最も可能性が高いことを示す。橋本論文では、「自然な筆勢によらない、意図したような太線による連綿」が中世の世尊寺家の書法の特徴として指摘できることを示した上で、その特徴が長門切にも見られることを示し、世尊寺家か同家の人々の書法をなし得た人々による書写であると指摘する。

 3の高木論文は、盛衰記の古活字版について、(一)慶長中刊本、(二)元和・寛永中刊本、(三)乱版の三種に分けて、それぞれの本文の性格を整理している。このうち、古活字版と整版を取り交ぜて印刷した(三)乱版がなぜこのような形態で存在するのかについて、無刊記整版本をもとにして整版本を覆刻した部分と活字を組んだ部分を作ったと想定する。

 4の志立論文は、『盛衰記』巻三に載せる澄憲の「祈雨表白」について、その典拠として指摘されている醍醐寺三宝院本『表白集』と『澄憲作文集』の本文を比較・検討している。両者とも、現存の本文を見る限り『盛衰記』より後次的な特徴を持ち、『盛衰記』の典拠としての可能性は低いことを述べる。

 5の吉田論文と6の秋田論文は、語法に着目して盛衰記の本文を分析している。吉田論文では、盛衰記がどの時代の言語事象を反映したものなのか、中世特有の語法に着目して探り、延慶本・覚一本よりも新しい語法が見られることを指摘する。秋田論文では、〈命令〉の意味を表す「べし」に着目し、中古にはほとんど見られなかった〈命令〉を表す「べし」が中世に増加することを指摘した上で、『盛衰記』では延慶本・覚一本に比べて多く用いているところから、吉田論文と同様に、延慶本・覚一本より新しい語法が反映したものと捉える。

 『盛衰記』の本文の持つ古さと新しさを示した本章の六論文の成果が、今後の本文研究にとって有益なものとなることを願ってやまない。(吉田永弘)

1 長門切の加速器分析法による14C年代測定(池田和臣)
一 はじめに/二 炭素14年代測定の原理・測定法・化学処理・暦年代較正/三 古筆切の年代測定/四 長門切の炭素14年代測定の結果/五 おわりに
2 中世世尊寺家の書法とその周辺―「長門切」一葉の紹介を兼ねて―(橋本貴朗)
一 はじめに/二 「後三年合戦絵巻」に見る世尊寺家書法の特徴/三 「長門切」再考―断簡一葉の紹介を兼ねて―/四 世尊寺家書法の影響圏/五 むすびにかえて
3 古活字版『源平盛衰記』の諸版について(高木浩明)
一 はじめに/二 慶長中刊本/三 元和・寛永中刊本/四 乱版
4 『源平盛衰記』巻第三に収められた澄憲の「祈雨表白」をめぐって―三宝院本『表白集』、実蔵坊真如蔵『澄憲作文集』との関係―(志立正知)
一 はじめに/二 醍醐寺三宝院本『表白集』との関係―後藤丹治の指摘―/三 『源平盛衰記』から三宝院本『表白集』へという可能性―清水宥聖の指摘―/四 三宝院本『表白集』典拠説の見直し―欠文の問題から―/五 『澄憲作文集』との関係―異本注記、傍記補入、文字表記―/六 注進文の異同をめぐって/七 三宝院本『表白集』の異本注記/八 まとめ
5 『源平盛衰記』語法研究の視点(吉田永弘)
一 はじめに/二 考察の前提と方法/三 「新出語」の検討/四 「新出語法」の検討/五 おわりに
6 源平盛衰記に見られる命令を表す「べし」(秋田陽哉)
一 はじめに/二 中古の〈命令〉を表す「べし」/三 中世の〈命令〉を表す「べし」/四 おわりに

Ⅲ 描かれた源平の物語

【 『源平盛衰記』を始めとする源平の合戦の物語を絵画にする作業は、古くから行われていたと考えられる。そして、現存している江戸時代以前の作品に限ったとしたならば、その調査・研究は簡単に進むと思われがちである。しかしながら、その作品の全貌を記した本や論文はまだ現れていない。

 だいたい、源平合戦の絵画には、どのようなものが存在しているのであろうか。一般的には、絵巻物や絵本を思い浮かべるであろうが、屏風や掛け軸、さらには、絵馬や扇子に描かれた作品等を含めたら、おそらく大変な数に上るであろう。実は、これは軍記物語に限ることではなく、さまざまなジャンルでも同じ現象が見られるのであるが、古い説話や物語の絵画化は多岐にわたっているのである。

 たとえば、著名な『源氏物語』であっても、絵巻や絵本についての作例は少ないが、屏風だけを取り上げても枚挙にいとまがなく、とても数え上げることはできない。源平合戦についても、それと同じことが言える。おまけに、源平合戦については、出典の本文の違いがあり、直接的に何を元に描いたかという問題も存在し、簡単に『源平盛衰記』の絵画だけを研究するというわけにはいかないのである。描かれたものは、極端な場合には、在地の伝承を元にしたことも考えられるのである。

 このような状況の中で、比較的整理しやすい絵巻と奈良絵本の調査・研究は、今後進むことになるであろう。しかし、『源平盛衰記』に限れば数に限りがあると思うが、『平家物語』ということになると、現代においても次々と新たな作品の情報が報告されている状況である。最近の研究によって、奈良絵本・絵巻の制作は十七世紀に集中していることが分かってきたが、それらと類似する屏風類や、それらの元になった絵入り版本も十七世紀に制作されたと考えるべきであることがわかってきた。現存する本格的な源平合戦の絵画の多くが十七世紀の制作であり、それらを受けて、浮世絵や草双紙、絵馬等の作品群が作られているようなのである。

 本章で取り上げる、1石川透/2工藤早弓/3出口久徳/4山本岳史/5宮腰直人/6小林健二/7伊藤悦子/8相田愛子の各論文は、まさにそのような事実を明らかにすると共に、それぞれの関心による、源平合戦の絵画についての試論というべきものである。取り上げるべき作品がまだまだ出現している以上、本格的に全てを網羅するような源平合戦絵画研究はできるはずもないが、本書は現時点での研究推進の力となり得るであろう。(石川 透)

1 軍記物語の奈良絵本・絵巻(石川 透)
一 はじめに/二 プリンストン大学蔵『平家物語』の書誌/三 豪華奈良絵本・絵巻の筆者/四 注文者の問題/五 おわりに
2 水戸徳川家旧蔵『源平盛衰記絵巻』について(工藤早弓)
一 はじめに/二 『源平盛衰記絵巻』の特色/三 『源平盛衰記絵巻』の制作/四 『源平盛衰記絵巻』の時代
3 寛文・延宝期の源平合戦イメージをめぐって―延宝五年版『平家物語』の挿絵を中心に―(出口久徳)
一 はじめに/二 延宝版の挿絵の表現―明暦・寛文版との関係をめぐって―/三 挿絵と物語本文との関係/四 物語の状況と挿絵の表現/五 延宝版の挿絵と近世メディア/六 おわりに
4 寛文五年版『源平盛衰記』と絵入無刊記整版『太平記』の挿絵―巻四十四「三種宝剣」と『太平記』「剣巻」の挿絵の転用をめぐって―(山本岳史)
一 はじめに/二 『源平盛衰記』・『太平記』の整版本/三 『源平盛衰記』・『太平記』の挿絵の比較  四 まとめ
5 舞の本『敦盛』挿絵考―明暦版と本問屋版を中心にして―(宮腰直人)
一 問題の所在/二 寛永版『敦盛』以降の展開―明暦版と本問屋版を中心に/三 明暦版の表現志向をめぐって―敦盛の物語へ/四 本問屋版の位相―直実から平家一門の物語へ/五 まとめにかえて
6 屏風絵を読み解く―香川県立ミュージアム「源平合戦図屏風」の制作をめぐって―(小林健二)
一 はじめに/二 能《藤戸》を描いた屏風絵/三 能《藤戸》が屏風に描かれた意図/四 盛綱の行為は名誉か、不名誉か/五 能に描かれた盛綱の後悔と補償/六 一の谷合戦を描く理由/七 本屏風の制作と佐々木氏/八 京極氏と若狭武田氏/九 むすび―共有する栄光の記憶として
7 久留米市文化財収蔵館収蔵「平家物語図」・「源平合戦図」について(伊藤悦子)
一 はじめに/二 「平家物語図」(紙本墨画淡彩)について/三 「源平合戦図」(紙本墨画淡彩)について/四 まとめ
8 平家納経涌出品・観普賢経の見返絵と『源平盛衰記』の交差―「銀ニテ蛭巻シタル小長刀」の説話から貴女の漂流譚へ―(相田愛子)
一 はじめに/二 涌出品・観普賢経の見返絵/三 「銀ニテ蛭巻シタル小長刀」の説話/四 厳島社の本地垂迹/五 おわりに―「平家納経」涌出品・観普賢経の解釈―

Ⅳ 演じられた源平の物語

【 「生」への執着や「死」に対する恐れ、人間同士の対立や葛藤をテーマにドラマを作るとすれば、いくさにまつわる物語は恰好の題材となろう。したがって中世や近世において古典となっていた源平の合戦譚は、芸能作品に沢山の材料を提供することとなった。

 今回の共同研究(「あとがき」参照)では、『源平盛衰記』を中心として、『平家物語』が能や狂言、さらに近世の浄瑠璃・歌舞伎などの中世・近世の芸能にいかに摂取され、芸能作品として作られたかについて多角的に分析し、新たな方向性を示すことを目的として、主に若手の研究者に報告をしてもらった。ここではその成果の中の六本を掲載する。

 まず、1の岩城論文であるが、『平家物語』の中でも平忠度に焦点をあてて、その都落と最期がどのように芸能に取り入れられ再生したかを、世阿弥作の「忠度」を基点として通史的に論じたもの。作品単位ではなく、一人物の文芸的描写を追っていくことは、時代的な嗜好や社会的な捉え方を点検する上で有効であろう。ところで、能における『平家物語』摂取の在り方は、世阿弥が伝書中に、「軍体の能姿......平家のままに書くべし」と述べていることから、『平家物語』を取り入れていることは間違いない。しかし、『平家物語』のテキストが固定するまでには長い流動期間があったわけで、その間に当時の人気芸能であった能の影響をうけていることもあり得たはずである。2の伊海論文は「巴」を取り上げてその点を論じたもので、今後の本説研究に一つの問題提起をなすものとなろう。一方、3の玉村論文は、テキストによる描写の一義性と映像の多義性という観点から、「巴」が『盛衰記』など『平家物語』のテキストを利用しながらも、リアルな演出を施すことで観客の想像力を喚起するチカラを持ち得なかったことのジレンマについて論じた、今までにないアプローチの作品研究である。4の稲田論文は、狂言の「文蔵」の語りについて、諸流のテキストを比較し、『盛衰記』とは異なる「石橋山の草子」なる独自の石橋山合戦物語が存した可能性について論じる。

 次に、近世演劇ではテキストの利用と音曲の摂取についてを取り上げた。5の後藤論文は、土佐少掾の軍記物古浄瑠璃において、軍記物で語られる「故事来歴」を利用しながら新しい趣向を創出していく方法について論じたもの。また、6の田草川論文は、古浄瑠璃から近松門左衛門にかけての浄瑠璃正本における平曲の節付け摂取について、文字譜〈平家〉に注目して基礎的な研究を行った労作である。この他、研究会では、『人形浄瑠璃のドラマツルギー 近松以降の浄瑠璃作者と平家物語』(早稲田大学学術叢書)の著書がある伊藤りさ氏に、浄瑠璃と『盛衰記』の関係について基本的な問題を提起してもらったことを付記しておく。(小林健二)

1 「平家物語」の「忠度都落・忠度最期」から展開した芸能・絵画―能〈俊成忠度〉の変遷と忠度・俊成・六弥太の造型に注目して―(岩城賢太郎)
一 『平家物語』『源平盛衰記』を典拠とする芸能・絵画/二 「平家物語」の平忠度関連話/三 「忠度都落」「忠度最期」に関連する能の作品/四 能〈俊成忠度〉から能〈五條忠度〉へ―明和改正謡本の指向したもの―/五 平忠度関連話に取材する絵画作品/六 平忠度・岡部六弥太らが活躍するする浄瑠璃・歌舞伎の作品/七 「平家物語」の視覚化を追究するために―能が示唆するもの―
2 小袖を被く巴の造型―『源平盛衰記』における能摂取の可能性をめぐって―(伊海孝充)
一 はじめに/二 能「巴」の問題点/三 巴の恋慕/四 長刀を持つ巴をめぐって/五 能「巴」の改作の可能性/六 戦場からの離脱と小袖被き/七 「小袖」をめぐる能と『源平盛衰記』の関係/八 『源平盛衰記』における能摂取の可能性
3 君の名残をいかにせん―能《巴》 「うしろめたさ」のナラトロジー―(玉村 恭)
一 はじめに/二 《巴》と平家物語/三 描写と物語/四 《巴》の描写
4 狂言「文蔵」のいくさ語り―もう一つの石橋山合戦物語―(稲田秀雄)
一 狂言「文蔵」のあらまし/二 「文蔵」の語りにおける武装表現(一)(大蔵流・和泉流)/三 「文蔵」の語りにおける武装表現(二)(鷺流・狂言記)/四 「文蔵」の語りにおける武装表現(三)―幸若舞曲との近似/五 『源平盛衰記』との相違点/六 「石橋山の草子」/七 劇中芸としての語り―原拠からの加工
5 土佐少掾の浄瑠璃における軍記の利用方法―「故事来歴」の趣向化―(後藤博子)
一 はじめに/二 『大職冠二代玉取』─主人公の人物造型と「恋」への利用─/三 『土佐日記』─「身代わり」への利用─/四 『源氏花鳥大全』─合戦場面への利用─/五 おわりに
6 浄瑠璃正本における〈平家〉考―文字譜〈平家〉の摂取と変遷をめぐって―(田草川みずき)
一 はじめに/二 浄瑠璃の節付について/三 文字譜〈ウタイ〉の場合/四 文字譜〈平家〉の記譜状況/五 〈平家〉記譜箇所の詞章/六 おわりに

Ⅴ 時の流れを見さだめて

【 時の流れの中に事象や人物を位置づけてその意味を考え、評価するのが歴史学である。本章はこうした歴史学の立場から、治承・寿永内乱期の様々な事象の意味、源氏・平氏および両氏に関わる人々の盛衰について考察する。用いる史料は『源平盛衰記』『延慶本平家物語』などの『平家物語』諸本、「真名本」「仮名本」の『曽我物語』、『玉葉』『吉記』のような貴族の日記、『愚管抄』『吾妻鏡』といった著作・編纂物、中世後期の記録『山田聖栄自記』、さらには近世の注釈書『参考源平盛衰記』など多岐に及ぶ。

 1の川合論文は、従来あまり正面から追究されてこなかった治承・寿永内乱期の和平の動向、すなわち源頼朝の和平提案に始まり、小松家の人々による交渉、鎌倉軍入京後の交渉、生田の森・一の谷合戦後の頼朝による交渉打ち切りに至る動向に着目し、内乱期政治史におけるその位置づけを探る。

 2の曽我論文は、殿下乗合事件は激怒した平重盛による松殿基房への報復であった、とみなす歴史学の「通説」を痛烈に批判する。そして、『盛衰記』の記述が『平家物語』諸本の中で最も史実に近いと評価する。史料としての『盛衰記』をまさに正面から追究した論考である。

 3の松薗論文は夢について論じる。中世の人々にとって夢は現代人とは異なる意味・機能を持っており、実に多くの夢の話が社会に流通していた。その中で『延慶本平家物語』『盛衰記』に見える夢の記事を析出し、藤原邦綱の母の夢・源雅頼の青侍の夢という二つの夢に焦点を当てる。

 4の坂井論文は、鎌倉初期の代表的な東国武士とされる和田義盛とその一族について論じる。『吾妻鏡』『盛衰記』『曽我物語』だけでなく、能・狂言・風流といった芸能にも視野を広げ、和田合戦に対する考察の重要性を指摘する。

 5の高橋論文は、十五世紀の島津惣領家に仕えた武士山田聖栄の体験記『山田聖栄自記』に見える『平家物語』関連の記述を分析し、史料の乏しさ故に考察が困難とされる、地方武士の『平家物語』受容・享受の問題に一石を投じる。

 6の岡田論文は、『大日本史』編纂の一環として編まれた『盛衰記』の注釈書『参考源平盛衰記』の伝本を検討し、静嘉堂文庫蔵賜蘆本の注釈姿勢から、〈奈佐本〉と称される現在は失われたテキストの存在に注目する。
 以上の六篇は、各論者が豊富な研究実績に基づき、独自の研究手法を駆使して、治承・寿永内乱期の事象の意味や人物の盛衰を考察した論考である。視点・論点の多種多様さに、歴史学という学問の豊かさ・奥行きの深さがうかがえる。そうした点も感じ取りつつお読みいただければ幸いである。(坂井孝一)

1 治承・寿永内乱期における和平の動向と『平家物語』(川合 康)
一 はじめに/二 源頼朝の和平提案/三 平氏都落ち後の和平の模索/四 小松家の脱落と新たな和平交渉の展開/五 おわりに―元暦元年の政治的意味―
2 『源平盛衰記』の史実性―殿下乗合事件の平重盛像再考―(曽我良成)
一 はじめに/二  平重盛の「激怒」/三 平重盛像/四 『源平盛衰記』の史実性/五 おわりに
3 『平家物語』にみえる夢の記事はどこからきたのか(松薗 斉)
一 はじめに/二 『平家物語』にみえる夢/三 藤原邦綱の母の夢/四 源雅頼の青侍の夢/五 おわりに
4 和田義盛と和田一族―歴史・文学・芸能におけるその位置づけ―(坂井孝一)
一 はじめに/二 和田義盛および和田一族の基本情報/三 『吾妻鏡』の義盛像―弓射の名手として/四 『吾妻鏡』の義盛像―侍所別当として/五 『吾妻鏡』の義盛像―人間味のある東国武士として/六 『源平盛衰記』の義盛像/七 『真名本 曽我物語』の義盛像/八 『仮名本 曽我物語』の義盛像/九 狂言『朝比奈』/一〇 風流と能の『朝比奈』/一一 和田合戦にまつわる能と伝承/一二 和田合戦が与えた衝撃と影響/一三 おわりに―朝比奈の伝説化と和田義盛―
5 『山田聖栄自記』と平家物語―平家物語享受の一齣―(高橋典幸)
一 はじめに/二 山田聖栄と『山田聖栄自記』/三 平家物語になぞらえる/四 おわりに
6 静嘉堂文庫蔵賜蘆本『参考源平盛衰記』の注釈姿勢―奈佐本『源平盛衰記』の引用を中心として―(岡田三津子)
一 はじめに/二 賜蘆本注釈の特徴/三 〈奈佐本〉による脱文の補訂/四 内閣A本と賜蘆本の先後関係/五 おわりに

付編 資料調査から新研究へ

【源平盛衰記の伝本について 

 いま我々が読んでいる源平盛衰記の本文はどこまで中世に遡れるのか、日本人の脳裏にひろく浸透している「源平の物語」形成に盛衰記はどのように関わったのか、それらの問題を考究するに当たっては、まず現存する盛衰記の伝本のありようを知る必要がある。近年の盛衰記伝本研究は、渥美かをるの分類から出発し、松尾葦江・池田敬子・岡田三津子らにより基礎的作業が行われた(注)。殊に写本の書誌情報は岡田三津子の著書に詳しい。
 一九九三年の時点で松尾は、未着手の課題として次のような問題を挙げた。

 ①現存写本の悉皆調査 
 ②盛衰記本文の原態の推定 
 ③慶長古活字版と元和寛永版の関係 
 ④整版本の附訓の由来 
 ⑤乱版の詳細 
 ⑥無刊記整版本の分類

 いずれも膨大な作業量を要する課題ばかりで、早急な解決は難しいと思われたが、今回の共同研究を通して④⑤と⑥については解明の端緒が得られた。また②に関しては新資料(長門切)への注目によって、③については古活字版悉皆調査を続ける高木浩明の仕事によって、新たな展開が見込まれる。よってここにその一端を掲げ、今後の研究に加勢したいと思う。


松尾葦江『軍記物語論究』四―4(若草書房、一九九六年。初出一九九三年五月)。
池田敬子「『源平盛衰記』諸本の基礎的研究」(『中研所報』、一九九三年七月)。
岡田三津子『源平盛衰記の基礎的研究』(和泉書院、二〇〇五年。写本の書誌に関する論考の初出は一九九六年〜二〇〇三年)。
(松尾葦江)

1 源平盛衰記写本の概要(松尾葦江)
2 源平盛衰記の古活字版について(高木浩明)

一 慶長中刊本/二 元和・寛永中刊本/三 乱版
3 『源平盛衰記』漢字片仮名交じり整版本の版行と流布―敦賀屋久兵衛奥付本・無刊記整版本・寛政八年整版本・寛政八年整版関連本をめぐって―(岩城賢太郎)
一 近世期における『源平盛衰記』整版本の享受の様相から/二 敦賀屋久兵衛奥付本概説/三 無刊記整版本概説/四 寛政八年整版本・寛政八年整版関連本概説/五 片仮名整版本の終焉―近代の『源平盛衰記』本文の版行へ
4 源平盛衰記 絵入版本の展開(山本岳史)
一 はじめに /二 寛文五年版・延宝八年版/三 元禄十四年版・宝永四年版/四 『源平盛衰記図会』
5 源平盛衰記テキスト一覧(山本岳史)
一 源平盛衰記/二 参考源平盛衰記
6 [調査報告]平家物語・源平盛衰記関連絵画資料(石川透・山本岳史・伊藤慎吾・伊藤悦子・松尾葦江)
一 はじめに/二 白描絵巻/三 絵巻/四 特大縦型奈良絵本/五 半紙縦型奈良絵本/六 小型扇面/七 屏風
7 フランス国立図書館蔵「源平盛衰記画帖」場面同定表(伊藤悦子・大谷貞徳)

あとがき(松尾葦江)

【あとがき

 本書は平成二十二年度から四年間(二〇一〇〜二〇一三)に亘って行われた共同研究【「文化現象としての源平盛衰記」研究―文芸・絵画・言語・歴史を総合して―】(科学研究費補助金・基盤研究(B)課題番号22320051)の研究成果報告書を兼ねた論文集である。本書の中でしばしば言及される「本共同研究」とは、それを指している。毎年、冊子体による報告書を出し、ホームページ「中世文学逍遙」に活動報告を掲載してきたが、得られた成果はそれらにすべては盛り込めず、また論文化することによってさらなる進展も見込まれると考え、笠間書院にお願いして論集出版を企画することにした。

 科研費の申請に当たっては、およそ以下のような「研究目的」をうたった―源平盛衰記を平家物語の異本としてのみ研究するのではなく、また他の文芸への影響関係を指摘するだけでなく、むしろ源平盛衰記をひとつの「文化現象」としてとらえ、室町時代から近世へ文化の動的な展開を観測する拠点として、そこから他のジャンル、他の時代にも考察を及ぼして行こうとする。

 右の方針に沿って調査、研究発表と討議、講演会やシンポジウムなどを行い、また源平盛衰記年表作成のための作業も行ってきた(その結果は、まもなく三弥井書店から刊行される)。但し、当初「室町から近世へ」と見込んだのは誤算であった。長門切の研究が進むにつれ、「文化現象としての源平盛衰記」は室町以降の問題に限定できなくなってきたからである。ひろく院政期から近世まで、平家物語の本文流動から歴史文学のありようまでを抱え込むテーマになっていった。

 その上、共同研究は四年間だったがその後の一年間、つまり本書を出すための作業の結果も殆ど四年分に匹敵するほどのものであった。連携研究者・研究協力者の多忙な日常に割り込むようにして行われた調査とその成果の整理は、本書の基底部分の重石となった。付編「調査から新研究へ」に収めた盛衰記伝本研究と絵画資料研究がそれである。粘り強い調査と、未踏の課題に挑戦する「蛮勇」とが開けた突破口から、その先へすでに歩き出している人たちもあり、本書によってさらに新たな飛び地ができることを期待したい。

 本編に収めた論考についても、それぞれに自由な題でお書き頂いたが、講演・発表時以降の課題が意識されている。分かりやすいように、Ⅰ文学・Ⅱ言語・Ⅲ芸能・Ⅳ絵画・Ⅴ歴史の五つのセクションに分けて配列したが、Ⅰには平家物語の成立、その背景、説話の伝播・変容、太平記との比較などの諸問題が含まれており、いずれも今日の軍記物語研究で正統的に行われる研究方法に則っているものの、その見定めている射程距離は決して短くない。後年、出発点としてふり返られる論文だと言ってよいと思う。Ⅱには盛衰記の成立年代をめぐってさまざまな角度からの照射が行われている。長門切の科学的年代判定、書写の歴史との関連、盛衰記が普及しそれらしい文体を確定する契機となった近世初期の出版事情、また引用文献との関係や語法変化から検討しうる年代の範囲。それらから導かれる結論はいまのところ一点に収斂していない。この難題をどう解くか、柔軟な試行錯誤が要求される。

 ⅢとⅣは従来ならば享受・受容などの用語で一方向的に論じられたであろう分野であるが、本書においては双方向、多方面に視野を広げて考える志向が顕著に見られる。それは盛衰記のように長い期間に亘って流動し続けた作品にとって、必要不可欠な視野だといえよう。Ⅴには歴史学の面白さを改めて味わわせてくれる論考が並ぶ。

 巻末に付編を置いたことから分かるように、本書は閉じられていない。科研費による共同研究は終了したが、これまで着手されていなかった数多の研究課題の種が播かれ、いくつかは発芽した。その伸びようとする勢いが本書の第一の魅力となっているが、さらに、文学史の上での中世と近世の隔壁を低くしたこと、盛衰記を始め平家物語読み本系諸本の成立と変貌の契機について再考を迫っていること、絵画や芸能との関係を双方向で捉えること等々、私たちの新しい提案が、将来ある研究者に、また好奇心に満ちた文学愛好家にも届くよう、希って送り出す。】...本書より一部掲載いたしました。

●執筆者プロフィール

黒田 彰(くろだ・あきら)佛教大学教授。【専門分野】国文学(中世)。
【著書・論文】『中世説話の文学史的環境』正・続(和泉書院、一九八七・一九九五年)、『和漢朗詠集古注釈集成』全三巻、(伊藤正義と共編、大学堂書店、一九九一〜一九九七年)、『孝子伝の研究』(思文閣出版、二〇〇一年)、『孝子伝図の研究』(汲古書院、二〇〇七年)など。
原田敦史(はらだ・あつし)岐阜大学教育学部准教授。【専門分野】中世文学、軍記物語。【著書・論文】『平家物語の文学史』(東京大学出版会、二〇一二年)、「流布本『承久記』の構造」(『国語と国文学』90・6、二〇一三年六月)など。
大谷貞徳(おおや・さだのり)栃木県立鹿沼東高等学校非常勤講師。【専門分野】中世日本文学、特に軍記物語。【著書・論文】「『平家物語』の変容に関する一考察 ―巻第五「咸陽宮」を中心に―」(『日本文学論究』73、二〇一四年三月)、「『源平盛衰記』における合戦記事の描写について」(『清翔』24、二〇一四年三月)、「屋代本『平家物語』における梶原景時の讒言をめぐって」(『平家物語の多角的研究―屋代本を拠点として』千明守編、ひつじ書房、二〇一一年)など。
橋本正俊(はしもとまさとし)摂南大学准教授。【専門分野】中世文学。【著書・論文】「山王霊験記と夢記」(『論集 中世・近世説話と説話集』和泉書院、二〇一四年)、「口決のかたち」(『中世文学と寺院資料・聖教』竹林舎、二〇一〇年)など。
小助川元太(こすけがわ・がんた)愛媛大学教授。【専門分野】中世文学。【著書・論文】『行誉編『壒嚢鈔』の研究』(三弥井書店、二〇〇六年)、『月庵酔醒記(上)(中)(下)』(共著・三弥井書店、二〇〇七年〜二〇一〇年)など。
早川厚一(はやかわ・こういち)名古屋学院大学教授。【専門分野】中世軍記物語。【著書・論文】『平家物語を読む―成立の謎をさぐる―』(和泉書院、二〇〇〇年)、『四部合戦状本平家物語全釈』(共著・和泉書院、二〇〇〇年〜現在刊行中)など。
辻本恭子(つじもと・きょうこ)兵庫大学・甲南大学非常勤講師。【専門分野】中世軍記物語。【著書・論文】『保元物語六本対観表』(共著(監修責任者 武久堅)・和泉書院、二〇〇四年)、「乳母子伊賀平内左衛門家長―理想化された知盛の死―」(『日本文藝研究』56・4、二〇〇五年)、「『源平盛衰記』の住吉明神―赤山明神造形に与えた影響について―」(『軍記物語の窓』第四集、和泉書院、二〇一二年)など。
セリンジャー・ワイジャンティ Vyjayanthi Selinger ボウドイン大学准教授。【専門分野】中世文学。【著書・論文】『Authorizing the Shogunate: Ritual and Material Symbolism in the Literary Construction of Warrior Order,』(Brill Japanese Studies Library、2013)、「換喩から提喩へ―「剣の巻」における歴史の形象」(『國文學 解釈と教材の研究』52・15、二〇〇七年)など。
平藤 幸(ひらふじ・さち)鶴見大学非常勤講師。【専門分野】中世文学。【著書・論文】共編著『平家物語 覚一本 全』(武蔵野書院、二〇一三年)、「新出『平家物語』長門切―紹介と考察」(『国文学叢録』 笠間書院、二〇一四年)など。
北村昌幸(きたむら・まさゆき)関西学院大学教授。【専門分野】中世文学・軍記物語。【著書・論文】『太平記世界の形象』(塙書房、二〇一〇年)、「『梅松論』の政治性―多々良浜合戦の意義をめぐって―」(『軍記物語の窓・第四集』和泉書院、二〇一二年)など。
小秋元段(こあきもと・だん)法政大学教授。【専門分野】中世文学・書誌学。【著書・論文】『太平記・梅松論の研究』(汲古書院、二〇〇五年)、『太平記と古活字版の時代』(新典社、二〇〇六年)、『校訂 京大本 太平記』上・下(共編、勉誠出版、二〇一一年)、『太平記をとらえる』第一巻(共著、笠間書院、二〇一四年)など。
伊藤慎吾(いとう・しんご)國學院大學非常勤講師。【専門分野】お伽草子・仮名草子研究。【著書・論文】『室町戦国期の文芸とその展開』(三弥井書店、二〇一〇年)、『室町戦国期の公家社会と文事』(三弥井書店、二〇一二年)、「延年の開口の世界観について」(『中世寺社の空間・テクスト・技芸)』アジア遊学174、勉誠出版、二〇一四年)など。
池田和臣(いけだ・かずおみ)中央大学教授。【専門分野】平安時代の文学。物語、和歌、日記、説話、漢詩漢文。古筆学。書道史。【著書・論文】『源氏物語 表現構造と水脈』(武蔵野書院、二〇〇一年)、『古筆資料の発掘と研究―残簡集録散りぬるを』(青簡舎、二〇一四年)など。
橋本貴朗(はしもと・たかあき)國學院大學准教授。【専門分野】日本書道史。【著書・論文】『決定版 日本書道史』(共著・芸術新聞社、二〇〇九年)、「鎌倉時代における中国書論受容の一端―「似絵詞」から『明月記』に及ぶ」(國學院大學『若木書法』12、二〇一三年)など。
高木浩明(たかぎ・ひろあき)【専門分野】中世文学・書物文化史。【著書・論文】『中院通勝真筆本『つれづれ私抄』―本文と校異―』(新典社、二〇一二年)、「下村本『平家物語』と制作環境をめぐって」(二松学舎大学『人文論叢』58、 一九九七年)、「『百人一首抄』(幽斎抄)成立前夜―中院通勝の果たした役割―」(『中世文学』58、二〇一三年)など。
志立正知(しだち・まさとも)秋田大学教授。【専門分野】中世軍記・伝承。【著書・論文】『『平家物語』語り本の方法と位相』(汲古書院、二〇〇四年)、『〈歴史〉を創った秋田藩―モノガタリが生まれるメカニズム―』(笠間書院、二〇〇九年)など。
吉田永弘(よしだ・ながひろ)國學院大學教授。【専門分野】日本語文法史。【著書・論文】「平家物語と日本語史」(『説林』60、二〇一二年)、「「る・らる」における肯定可能の展開」(『日本語の研究』9・4、二〇一三年)、「古代語と現代語のあいだ―転換期の中世語文法―」(『日本語学』33・1、明治書院、二〇一四年)など。
石川 透(いしかわ・とおる)慶應義塾大学教授。【専門分野】物語や説話を中心とした古典文学・絵本絵巻研究。【著書・論文】『入門 奈良絵本・絵巻』(思文閣出版、二〇一〇年)、『御伽草子 その世界』(勉誠出版、二〇〇四年)、『中世の物語と絵画』(編著書・竹林舎、二〇一三年)など。
工藤早弓(くどう・さゆみ)【専門分野】室町物語・奈良絵本研究。【著書・論文】 『奈良絵本』上・下(京都書院、一九九七年、のちに紫紅社)、「ひと口笑話『法師物語絵巻』」(別冊太陽201『やまと絵 ― 日本絵画の原点』平凡社、二〇一二年)など。
秋田陽哉(あきた・ようや)滝中学・高等学校教諭。【専門分野】日本語学・国語教育。
出口久徳(でぐち・ひさのり)立教新座中学校高等学校教諭・立教大学兼任講師。【専門分野】中世文学。【著書・論文】『図説 平家物語』(共著、河出書房新社、二〇〇四年)、『平家物語を知る事典』(共著、東京堂出版、二〇〇五年)など。
山本岳史(やまもと・たけし)【専門分野】中世日本文学、特に軍記物語。【著書・論文】「『源平闘諍録』本文考―巻五「南都牒状事」を中心に」(『國學院雑誌』114・11、二〇一三年十一月)、「「國學院大學図書館所蔵奈良絵本『平家物語』考」(『國學院大學 校史・学術資産研究』5、二〇一三年三月)など。
宮腰直人(みやこし・なおと)山形大学准教授。【専門分野】中世文学・物語絵画・語り物文芸。【著書・論文】『義経地獄破り―チェスター・ビーティー・ライブラリィ所蔵』(共著、勉誠出版、二〇〇五年)など。
小林健二(こばやし・けんじ)国文学研究資料館教授。【専門分野】室町期文芸(能・狂言、幸若舞曲、お伽草子など)。【著書・論文】『沼名前神社神事能の研究』(和泉書院、一九九五年)、『中世劇文学の研究―能と幸若舞曲―』(三弥井書店、二〇〇一年)など。
伊藤悦子(いとう・えつこ)【専門分野】中世文学(軍記物語)。【著書・論文】『木曽義仲に出会う旅』(新典社、二〇一二年)、「「源平合戦図屏風」の一考察―いわゆる「一の谷・屋島合戦図屏風」の分類方法について―」(『軍記と語り物』50、二〇一四年三月)など。
岩城賢太郎(いわぎ・けんたろう)武蔵野大学准教授。【専門分野】中世文学、伝統演劇。【著書・論文】「幸若舞曲『鎌田』から近世演劇へ─荒事の渋谷金王丸が形成されるまで─」(小林健二編『中世文学と隣接諸学 第7巻 中世の芸能と文芸』竹林舎、二〇一二年)、「中世・近世芸能が語り伝えた斎藤実盛─謡曲と『源平盛衰記』を経て木曾義仲関連の浄瑠璃作品へ」(『武蔵野大学能楽資料センター紀要』22、二〇一一年三月)など。
相田愛子(あいだ・あいこ)兵庫県立歴史博物館学芸員。【専門分野】日本美術史(仏教絵画)。【著書・論文】「平家納経の世界―平家公達の祈りと造形―」『平家物語を歩く』(JTBパブリッシング、二〇〇四年)、「「平家納経」の思想と装飾プログラム」(『美術史』58・2号、二〇〇九年三月)。「「平家納経」の世界」、高橋昌明編、別冊太陽190『平清盛―王朝への挑戦―』(平凡社、二〇一一年)など。
伊海孝充(いかい・たかみつ)法政大学准教授。【専門分野】能楽および日本中世文学。【著書・論文】『切合能の研究』(檜書店、二〇一一年)、『日本人のこころの言葉 世阿弥』(西野春雄と共著、創元社、二〇一三年)、「王屋謡本の研究(一)―王屋謡本諸本の関係をめぐって― 」(『能楽研究』38、二〇一四年七月)など。
玉村 恭(たまむら・きょう)上越教育大学准教授。【専門分野】美学、音楽学。【著書・論文】「能管演奏者の個性はどのように表出されるのか―日本音楽の特質解明の一環として―」(『音楽教育学』43・2、二〇一三年)、「世阿弥の「心」の翻訳可能性―通訳と通約の臨界―」(『能楽研究』32、二〇〇八年)、「遁世と詩歌―鴨長明『方丈記』『発心集』の遁世観と詩歌観―」(『美学』230、二〇〇七年)など。
稲田秀雄(いなだ・ひでお)山口県立大学教授。【専門分野】能・狂言を中心とする日本中世劇文学。【著書・論文】『天理本狂言六義(上巻)(下巻)』(共著、三弥井書店、一九九四〜一九九五年)、「鷺流の「古態」―天正狂言本との関連を中心に―」(『藝能史研究』195、二〇一一年)、「山口鷺流台本の系統(一)(二)―春日庄作自筆本をめぐって―」(『山口県立大学国際文化学部紀要』19〜20、二〇一三〜二〇一四年)など。
後藤博子(ごとう・ひろこ)帝塚山大学准教授。【専門分野】日本近世演劇。【著書・論文】「享保期江戸歌舞伎における屋敷方と芝居町の一様相─加賀藩邸上演記録を中心に─」(『藝能史研究』174、二〇〇六年)、「土佐少掾と元禄歌舞伎─『薄雪』を中心に─」(『近世文芸』87、二〇〇八年)など。
田草川みずき(たくさがわ・みずき)日本女子大学学術研究員。【専門分野】近世演劇。【著書・論文】『浄瑠璃と謡文化―宇治加賀掾から近松・義太夫へ』(早稲田大学出版部、二〇一二年)、「新出資料・宇治加賀掾跋『八九杖』と竹翁坐像について」(『楽劇学』20、二〇一三年三月)、「宇治加賀掾段物集における謡曲本文の浄瑠璃化について―理論と実践、かざし詞など」(『古典芸能研究センター紀要』8、二〇一四年六月)など。
川合 康(かわい・やすし)大阪大学大学院教授。【専門分野】日本中世政治史。【著書・論文】『源平合戦の虚像を剥ぐ』(講談社、一九九六年)、『鎌倉幕府成立史の研究』(校倉書房、二〇〇四年)、『源平の内乱と公武政権』(吉川弘文館、二〇〇九年)など。
曽我良成(そが・よしなり)名古屋学院大学教授。【専門分野】日本古代中世の政治史・文化史。【著書・論文】『王朝国家政務の研究』(吉川弘文館、二〇一二年)など。
松薗 斉(まつぞの・ひとし)愛知学院大学教授。【専門分野】日本古代・中世史。【著書・論文】『日記の家―中世国家の記録組織』(吉川弘文館、一九九七年)、『王朝日記論』(法政大学出版局、二〇〇六年)、『日記で読む日本中世史』(共編著・ミネルヴァ書房、二〇一一年)など。
坂井孝一(さかい・こういち)創価大学教授。【専門分野】日本中世史。【著書・論文】『曽我物語の史的研究』(吉川弘文館、二〇一四年)、『源実朝―「東国の王権」を夢見た将軍』(講談社、二〇一四年)「中世前期の文化」(『岩波講座 日本歴史』第6巻・中世1、岩波書店、二〇一三年)など。
高橋典幸(たかはし・のりゆき)東京大学大学院准教授。【専門分野】日本中世史。【著書・論文】『源頼朝』(山川出版社、二〇一〇年)、『鎌倉幕府軍制と御家人制』(吉川弘文館、二〇〇八年)、『日本軍事史』(共著、吉川弘文館、二〇〇六年)など。
岡田三津子(おかだ・みつこ)大阪工業大学教授。【専門分野】日本中世文学。【著書・論文】『源平盛衰記の基礎的研究』(和泉書院、二〇〇五年)、『宴曲索引』(共編著、和泉書院、二〇〇九年)、「蓬左文庫蔵『源平盛衰記』再考―書写者玄菴三級の検討を通して―」(『軍記物語の窓 第三集』和泉書院、二〇〇七年)、「面白の海道下りや―宴曲〈海道〉の継承と変容―」(『中世文学と隣接諸学7 中世の芸能と文芸』竹林舎、二〇一二年)など。


●グーグル提供広告