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2014年11月21日

 記事のカテゴリー : リポート笠間掲載コンテンツ

●和田敦彦「学会誌電子化・公開の明暗―NII-ELSの事業終了を視野に」●リポート笠間57号より公開

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リポート笠間57号より、和田敦彦「学会誌電子化・公開の明暗―NII-ELSの事業終了を視野に」、を公開いたします。

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学会誌電子化・公開の明暗―NII-ELSの事業終了を視野に

和田敦彦[早稲田大学教授]
▼日本近現代文学、読書論・読者論、メディア論、出版史。『読むということ テクストと読書の理論から』(ひつじ書房、一九九七年)、『書物の日米関係 リテラシー史に向けて』(新曜社、二○○七年)、『読書の歴史を問う 書物と読者の近代』(笠間書院、二○一四年)など。


 二年後の二〇一六年、国立情報学研究所の電子図書館事業(NII-ELS)が終了するという。NII-ELSは、学会誌の新刊、バックナンバーを受けとって無償で電子化し、データベースに登録、公開するサービスをこれまで行ってきており、日本文学研究の学会誌でこの事業に依存しているところは少なくない。もし各学会が何の対策も講じなければ、現在新刊の学会誌をNII-ELSに渡して電子化、公開している学会誌は、その時点以降の号の電子化、公開が途絶えてしまいかねない。

 また、人文科学系の学会誌にとって、新刊分の電子化、公開に劣らず重要なのは、バックナンバーの電子化、公開である。機関誌の現物を渡せばスキャニングから書誌作成、データベース登録まで無償で行ってくれたNII-ELS事業は、こうした大量のバックナンバーの電子化、公開にも大きく貢献してきた。そのサービス終了によって、大量のバックナンバーを電子化、公開する際のもっとも安価で、効率的な道が閉ざされることになる。

 日本文学研究関連の学会誌の電子化、公開について言えば、ここ数年かなり見通しが明るくなってきたところだった。日本文学協会が『日本文学』創刊時からのバックナンバーの電子化、公開準備を昨年からはじめ、二〇一四年にはその公開が予定されている。大規模な学会の半世紀に及ぶ機関誌が、小規模な予算と一年程度の準備で可能となったこの事例は、日本文学研究の他の学会へ影響することは間違いないし、いくつかの学会が、この活動をモデルに機関誌の電子化を準備していることも耳にした。私自身、日本文学協会の電子化を手伝った後、その作業をベースにして日本近代文学会の機関誌バックナンバーの電子化、公開事業に協力している。

 日本文学協会の行ったバックナンバーの電子化にも、NII-ELSのサービスが大きく貢献していた。ここでは、日本文学協会や、日本近代文学会といった比較的規模の大きい学会が、バックナンバーの電子化、公開が実現していった具体的な経緯について述べるとともに、その中でNII-ELSがどういう位置を占めていたか、そしてそのサービスが終了した後、どうすれば新刊、あるいはバックナンバーの電子化を進めていけるのかを考えたい。

 学会誌の電子化、公開のプロセスは、新刊、バックナンバーともに、大きく二つのプロセスに分けられよう。著者から電子化、公開の了解を得るプロセスと、学会誌をスキャニング、公開し、既存の大規模なデータベースと連動させるプロセスである。このうち、NII-ELSは、後者の作業を原則無償で行ってきたわけである。

 したがって、学会側に必要なのは、著作者から電子化、公開の了解を得ることのみでよいわけである。日本文学協会や日本近代文学会による著作者の了解を得る手順は、日本法制史学会の事例をベースにしている(http://www.jalha.org/denshika_irai.html)。学会の大会、ホームページ、機関誌を通して事業の意義と内容を示して著者の了解を求め、電子化、公開を拒絶する執筆者から連絡があればその論文を事業の対象からはずす。特に拒絶の連絡がない場合には「黙示の許諾」があったものとみなして電子化、公開事業を進める方法である。

 ただ、すでに退会した人々を含めた非会員への連絡が十全とは言えないため、いくつかの補助的な方策をあわせて行っている。バックナンバーから、現会員以外の執筆者をすべてリスト化し、その執筆者の所属先(旧所属先を含む)に通知文を郵送する。また、送り先不明の執筆者については、編集委員や運営委員の間でリストを回したり、著作権台帳を参照して情報収集を行う。さらに、通知が届かず、事業を知らなかった執筆者が、後から公開を拒絶したいという申し出があれば、そのデータの削除にも応じるようにしている。

 なお、いずれの学会も非会員の執筆者のうち、日本文芸家協会に著作権の管理を委託している著者(同協会のホームページでリストが公開されている)は電子化、公開者の対象からはずしている。公開が有償となる場合があり、一括した許諾が得にくいためである。また、論文中の図版も公開から除く措置をとっている。

 実際には電子化、公開を拒絶する執筆者はごくわずかである。研究者の場合、著作権収入が生活や研究資金の基盤になっているケースは少なく、無償でもできるだけ多くの人々に研究の成果を公開、共有して欲しいと考える人が多いので、これは当然といえるだろう。日本文学協会、日本近代文学会は、いずれも個人会員一五〇〇人規模の学会であり、ともに半世紀以上のバックナンバーを抱えている。それでも上記の作業はアルバイトを雇用すれば郵送費も含めて15〜20万円程度である。そこまで済ませれば、あとはNII-ELSの側が、無償で機関誌をスキャンし、書誌情報を付してデータベースに公開してくれていたわけである。

 NII-ELSからその事業に参加していた研究機関に、事業終了についての文書が送られてきたのは、二〇一四年三月である。四月に代替サービスを含めての説明会が開催され、その後、正式に同事業が二〇一六年に終了することが発表された。終了の理由には、同様のサービスを科学技術振興機構(JST)がJ-Stageとして提供している点があげられていた。サービス移行の新たな受け皿としてもこのサービスがあげられている。

 ただ、J-Stageは、日本文学研究領域の学会では、ほとんど利用されてきていない。NII-ELSの場合、ただ機関誌を渡せば電子化、公開までを引き受けてくれていたわけだが、J-Stageの場合、学会側が、機関誌のPDF(テキスト付き)を準備し、さらに各論文の書誌情報ファイルを作成、アップロードすることが必要となる。そのような余力のある学会は少ないし、その作業を外注するほど予算的に余裕のある学会も多くはない。

 では二年後、NII-ELSの事業終了とともに、日本文学関連学会の機関誌電子化事業は失速してしまうことになるのだろうか。これら学会のうち、大学に基盤をもつ学会については、大学のリポジトリが代替サービスとなり得る。各大学が、その制作した印刷物を電子化し、オープンアクセスの形で提供するサービスが整ってきており、それら全国各地のリポジトリをつなぐ国立情報学研究所のポータル(JAIRO)も整備されてきている。

 問題は特定の大学に基盤をもたない学会である。その際にもっとも期待されるのがJSTが新たに提供するサービス、J-Stage Liteとなる。先に、J-Stageのサービスを利用するには、学会側の負担が大きい点を述べたが、それが大幅に簡略化されるサービスとなる。ただ、このサービスはまだ始まっておらず、二年後、すなわちNII-ELSの終了時からサービスが始まる予定となっている。面倒な書誌ファイルを論文ごとに作成する必要はなくなり、ウェブ上で著者名やタイトル情報を入力し、アップロードできるので、専門的な知識はそれほど必要なくなることが期待される。

 ただ簡略化されたとはいえ、学会側は機関誌のPDFを準備し、論文ごとにそれをアップロードするという作業は必要となる。今後の日本文学研究における論文の電子化、公開の維持、進展は、こうした体制をそれぞれの学会が作っていけるか、あるいはうまく別のサービスに移行先を見つけていくことができるか、にかかっている。繰り返しになるが、各学会が何もしなければ、日本文学研究の機関誌電子化事業は、新刊、バックナンバーともに二年後には間違いなく衰退、激減する。

 これを何とかする方策や可能性は様々にある。出版社や印刷会社が、機関誌の印刷とあわせてこうした事業を請け負う可能性もあるだろう。個々の学会で、この作業の担当者を設けたり、アルバイトを雇用したりすることも可能だろう。より安価に、そして大規模にこうした事業を学術機関が担う可能性もある。国文学研究資料館や、国際日本文化研究センターといった機関が中心となり、代替サービスの提供とまではいかなくとも、学会誌の電子化、公開を支援、推奨するプログラムを作っていく可能性もある。

 国文学研究資料館は、事業費総額八八億円という古典籍の電子化事業を準備しつつある。それはそれですばらしいことには違いはないが、日本文学の研究文献の電子化が伴わなければ、それら古典籍と国内外の利用者とを結びつける肝心の部分が欠けてしまいかねない。日本文学の学会連合である日本文学関連学会連絡協議会が、共同でこうした枠組みを作っていく可能性もあろう。日本文学研究の各学会にとって、今こそ、こうした共同の取り組みについて考え、取り組んでいく重要な時期だと言えるだろう。

【参考サイト】
■電子図書館(NII-ELS)の事業終了について(国立情報学研究所電子図書館)
http://www.nii.ac.jp/nels_soc/about/
■J-STAGE Lite(仮称)の開発について(J-STAGE)
https://www.jstage.jst.go.jp/pub/html/AY04S560_ja.html


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