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2013年5月 7日

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●安原眞琴「映像記録「最後の吉原芸者 四代目みな子姐さん―吉原最後の証言記録―」製作の経緯」【リポート笠間54号・先行公開】

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5月末刊行予定の『リポート笠間』54号より、安原眞琴氏のエッセイを先行公開いたします。

映像記録「最後の吉原芸者 四代目みな子姐さん―吉原最後の証言記録―」製作の経緯

安原眞琴[立教大学兼任講師]

やすはら・まこと○日本中世・近世文学専攻。『『扇の草子』の研究』(ぺりかん社、二○○三年)、『超初心者のための落語入門』(主婦と生活社、二○○九年)など。


 故・谷脇理史先生であっただろうか。地方で行われた日本近世文学会後の三次会で、このようなアドバイスをいただいたことがある。

 ―一〇年に一度は本を出すように心がけるといいよ。―

 その時私は、博士論文『『扇の草子』の研究―遊びの芸文』(ぺりかん社、二〇〇三年)を刊行したばかりだった。「一〇年後は何を出そう。何が出せるだろう。仮名草子で書けるといいな。」そんなことを漠然と思いながら、年月が過ぎていった。

 二年が経ったある日、私はたまたま吉原芸者みな子姐さんと出会った。当時八十五歳。聞けば最後の吉原芸者であるという。お目にかかる直前に、ちょうどまた日本近世文学会があったので、「お座敷芸」について先生方にうかがってみた。すると、資料はたくさん教えていただけたが、実際の踊りの振り付けや唄の旋律については、どなたもご存知なかった。「昔の先生方なら、吉原に遊びにいらしたから分かるだろうけど、今では分かる人はいないよ。」とおっしゃる先生もいらした。

 〈最後の吉原芸者〉という響きと、〈今では分かる人はいないよ〉という言葉が、私の中で結び付いていった。「みな子姐さんの芸とお話をビデオカメラで残さなければ、以後、誰も吉原のお座敷芸を実際に踊り唄える人がいなくなってしまう。」と直感したのである。この映像記録が、一〇年後の私の二つ目の研究成果になろうとは、思ってもみないことだった。

 お姐さんとの最初の出会いの日、私は二台のカメラを用意して撮影した。それからというもの、毎日のように会い、その都度カメラを回した。お姐さんも、私がうっかりカメラを忘れると、「今日はカメラを持ってこなかったの。」と、少し不服そうにおっしゃるようになった。

 私は、とてもお元気なお姐さんがお亡くなりになると考えたことがなかった。みな子姐さんへのカメラでの取材が六年目に入った二〇一〇年一月、この頃私は、すでに映像の編集作業を始めており、しばらくお会いしていなかったのだが、一本の電話が入った。「今度は私がご馳走するわね。いつもの魚昇さんで、ふぐにしましょう。」とのお姐さんからのお誘いの電話であった。このようなことはしばしばあったので、私は何も考えずに、ふぐをほおばりながら、「四月頃に映像をお見せしますね。」と約束した。

 その後はお目にかかることなく編集作業に没頭した。その時である。お姐さんのかつてのお弟子さんである二三松さんから電話がかかってきた。「お姐さんが浅草寺病院に入院した。もう最後かもしれない。」という衝撃的な内容であった。

 お姐さんは確かに衰弱されていたが、まだ冗談をおっしゃる力があった。ただ、ベットに横たわる姿を想像していなかったので、ひどく動揺してしまい、どんな会話をかわしたかはあまり覚えていない。別れ際、「四月と約束した映像は、まだ完成していないので、それを見ていただくためにも、早くお元気になってください。」と伝え、お姐さんも「ハハハ、そうね。」と答えてくださった。その後間もなくお話もできなくなってしまったという。お亡くなりになったのは、五月三十一日のことである。

 二〇一二年の三回忌が過ぎるまで、私は一度も映像を見ることができなかった。私の持つカメラに向かい、話し、唄い、踊ってくれた、いつものお姐さんの姿を見ることは、どうしてもできなかったのである。しかし、三回忌が終わった時、「今がお姐さんとの約束を果たす時期である。」と思うに至り、編集作業を再開した。そして、翌年の二〇一三年四月二十一日に、お姐さんのゆかりの方々六〇余名にお集まりいただき、六〇分にまとめた映像を初お披露目した。

 八年間、私しか見ていなかったお姐さんの映像を、他の人が、特にゆかりの方々がどのようにご覧になるだろうかと不安になり、客席を見ることはできなかったが、後でうかがったところ、皆様、笑ったり、涙をぬぐったりされていたという。「お姐さんも喜んでくださっただろうか、きっとそうに違いない」。拍手をいただいた時、そのように感じた。

あらすじ

 この映像記録は、私とお姐さんとの、ひょんなことからの出会いからはじまる。この時ホンモノの芸にふれてしまった私は、その「ホンモノの感覚」をもっと明確にしたいという思いと、なによりもお姐さんの人間的な魅力に惹かれて、カメラを持って毎日のようにお会いする、言い換えれば、お姐さんの"追っかけ"になった。

 まず、三五〇年にわたる吉原の歴史やしきたり、また、ご自身がどのように歩んでこられたのかなどを、インタビューを通してうかがった。十一歳で吉原に奉公したお姐さん。以後、休日もなく、一年中、毎日、ほとんど二十四時間、寝る間もなく、お稽古とお座敷にあがる日々が続いた。お姐さんの芸はこのようにして身に付けられたものなのである。その後、東京大空襲や吉原遊廓の終焉なども経験してきたが、吉原芸者としての誇りと心意気は決して見失うことがなかった。

 次に、お話をうかがっているうちに、実際のお座敷が体験したくなった私は、ある日、「特別なお座敷」をセッティングした。浅草花街の芸者さんにもご協力いただき、吉原芸者みな子姐さんと二人の浅草芸者衆に、今はなき吉原のお座敷の雰囲気を再現してもらったのである。定番の唄や踊りも、この日は一段と輝いて見えた。また、今やお姐さんしか知らないお座敷遊びや俗曲も披露していただいた。浅草の芸者衆も、普段の芸者という仮面をはずして、素の姿で心から笑い楽しんでいたようであった。

 楽しいひとときはアッという間に終わってしまうものである。この映像記録の最後は、吉原のお座敷で必ずうたわれていた唄・吉原さわぎで締めくくられる。現在では「さわぎ」と呼ばれ、どの花街でもうたわれているが、本来は「吉原さわぎ」と言い、吉原固有のお座敷唄であった。

 私はまだ、お姐さんと会っていた時に感じた「ホンモノ」の感覚を、明確に説明することができない。ただ、ホンモノに包まれた時の幸せな気分を覚えているだけである。それが何であったのかを、これからも、おそらく生涯、考え続けていくことだろう。そしてある時、自らを振り返って、私も「ホンモノ」と思えるものを一つでも持っていられたらと思う。

 今後は、多くの方々に、この映像を見ていただきたいと思っている。ハーバード大学からDVDの予約が入ったのを機に、世界にもホンモノの日本文化をお伝えできればと願うようにもなった。上映依頼を心よりお待ちしております。今後の予定は次の通りです。

▼5月19日(日) 荻窪ベルベットサン(座席40名)
18:30開場、2000円。
※上映後、伝説のドラッグクィーン・ヴィヴィアン佐藤さ んとのトークショーあり。
※DVDの発売開始

▼6月23日(日)浅草見番
(クラウドファンドReadyFor?にて予約受付中)
14:00開場。
※上映前、吉原に伝わる幻の至芸・二調鼓の演奏会あり。
 出演、望月太左衞師匠、二三松さん他。

●詳細およびお問い合わせ先
http://www.makotooffice.net/
FAX03-3823-6115

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なお、今回の安原さんの映画は、以下のメディアで取り上げられています。併せてご覧ください。

吉原芸者 最後の記録  大学講師が短編映画に: 地域 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

最後の吉原芸者に迫る 「みな子姐さん」ドキュメント映画完成(東京新聞)

また、今回の映画に関するすべての情報は、公式サイト「makoto office」でご確認ください。
http://www.makotooffice.net/

今回の映画は、クラウドファンディング・READY FOR?で支援を受け付けております。 6月10日(月)締切です。
https://readyfor.jp/projects/geisha

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上記の文章が掲載される『リポート笠間』54号は、5月末刊行予定です。

report54.jpg

『リポート笠間』54号
2013.5.31発行
A5判・並製・64頁
装丁・笠間書院装丁室
非売品(無料頒布)

『リポート笠間』は年一回秋に発行している小社のPR誌です。
今回から、「学界時評」をはじめた都合上、年2回の刊行となります。

今号はエッセイを2本掲載するほか、「学界時評」も載せています(執筆メンバーは前回とほぼ同じです。次号より、全員変わります)。
ぜひお手にとってご覧頂きたいと思っています。

定期購読されている方で、住所変更のあったかたは、info@kasamashoin.co.jp宛にご連絡ください。
また、まだ読んだことがない方で、購読希望の方は、info@kasamashoin.co.jp宛に、郵便番号・住所・お名前をお知らせ下さい(定期購読になっているかどうか、確認したいかたもご一報ください)。
よろしくお願いいたします。
送料無料・購読料無料です!

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【目次】
●エッセイ
○安原眞琴[立教大学兼任講師]
映像記録「最後の吉原芸者 四代目みな子姐さん―吉原最後の証言記録―」製作の経緯
○堀川貴司[慶應大学附属研究所斯道文庫教授]
古い読書ノートから

●受賞図書
○紫式部顕彰会 第14回紫式部学術賞
鈴木宏子『王朝和歌の想像力 古今集と源氏物語』
○日本歌謡学会 第30回志田延義賞受賞
中田幸司『平安宮廷文学と歌謡』

●学界時評
上代―小川靖彦
中古―加藤洋介
中世―牧野淳司
近世―川平敏文
和歌―渡邉裕美子
日本語の歴史的研究―小柳智一
近現代―疋田雅昭

●コレクション日本歌人選・書評再録
○「歌の国」の集大成 祝完結! 評・上野誠(万葉学者・奈良大教授)
○東京新聞夕刊(2013.4.25)
○朝日新聞・本の舞台裏(2013.2.10)

●新刊案内
2012年12月〜2013年6月刊行の本

●コラム
○自著解説[和泉式部日記注釈[三条西家本]](岩佐美代子)
○『表紙裏の書誌学』評判記(渡辺守邦)


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