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2013年2月26日

 記事のカテゴリー : 新刊案内

●岩佐美代子『和泉式部日記注釈[三条西家本]』(笠間書院)

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3月下旬の刊行予定です。

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岩佐美代子『和泉式部日記注釈[三条西家本]』(笠間書院)
ISBN978-4-305-70690-4 C0095
定価:本体2,800円(税別)
A5判・上製・カバー装・206頁

古今を通じての恋の代表選手、和泉式部が最もいとおしい思い出を描いた『和泉式部日記』。あらざらんこの世のほかの思ひ出でに今一度の逢ふこともがな [百人一首]。たったこれだけの事をこんなに情愛をこめて、やさしく美しく表現した『和泉式部日記』を、最も原作に近い本文を持つ三条西家本の原態を生かし、読解する。ここに『和泉式部日記』が新しい解釈で蘇る。

【古今を通じての恋の代表選手が、数ある恋の中でも最もいとおしい思い出、敦道親王との愛の経緯を、発端から宮邸入りまでの約十箇月、二人の感情の起伏を実にリアルに、心をこめて描いたのがこの『和泉式部日記』です。主要人物はこの二人きり、宮の小舎人童(こどねりわらわ)と乳母、女の使う樋清童女(ひすましわらわ)がわずかにこれにからみ、最終段、宮邸を去る北の方と姉女御が結末を締めるだけ。そんな単純な構成でありながら、二人の恋心の展開は波瀾万丈、取りかわす会話や和歌・手紙文は情趣と機知にあふれ、千年前の男女交際はこんなにも文化の薫り高いものであったかと、現代のそれと思いくらべて、今昔の感に堪えません。かくも美しい恋の姿を書き残しておいてくれた作者に、心からの感謝と敬愛の念を捧げます。......はじめにより】

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【著者紹介】
岩佐美代子(いわさ・みよこ)
大正15年3月、東京生まれ。昭和20年3月、女子学習院高等科卒業。鶴見大学名誉教授。文学博士。

『京極派歌人の研究』(笠間書院 昭和49年)、『あめつちの心 伏見院御歌評釈』(笠間書院 昭和54年)、『京極派和歌の研究』(笠間書院 昭和62年)、『木々の心花の心 玉葉和歌集抄訳』(笠間書院 平成6年)、『玉葉和歌集全注釈』全四巻(笠間書院 平成8年)、『宮廷に生きる 天皇と女房と』(笠間書院 平成9年)、『宮廷の春秋 歌がたり女房がたり』(岩波書店 平成10年)、『宮廷女流文学読解考 総論中古編・中世編』(笠間書院 平成11年)、『永福門院 飛翔する南北朝女性歌人』(笠間書院 平成12年)、『光厳院御集全釈』 (風間書房 平成12年)、『宮廷文学のひそかな楽しみ』(文藝春秋 平成13年)、『源氏物語六講』(岩波書店 平成14年)、『永福門院百番自歌合全釈』(風間書房 平成15年)、『風雅和歌集全注釈』全三巻(笠間書院 平成14・15・16年)、『校訂 中務内侍日記全注釈』(笠間書院 平成18年)、『文机談全注釈』(笠間書院 平成19年)、『秋思歌・秋夢集新注』(青簡舎 平成20年)、『藤原為家勅撰集詠・詠歌一躰・新注』(青簡舎 平成22年)、『岩佐美代子の眼 古典はこんなにおもしろい』(笠間書院 平成22年)、『竹むきが記全注釈』(笠間書院 平成23年)、『讃岐典侍日記全注釈』(笠間書院 平成24年)ほか。

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■ご予約・ご注文は版元ドットコムで
http://www.hanmoto.com/bd/isbn978-4-305-70690-4.html
または、直接小社まで、メ―ルで info@kasamashoin.co.jp ご連絡いただいても構いません。またはこちらのフォ―ムで、購入希望としてご連絡ください(書名・冊数・お名前・ご住所・電話番号を明記してください)。
http://kasamashoin.jp/mailform.html
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【目次】

はじめに 凡例

■注釈
一  聞かばや同じ声やしたると
二  はじめて物を思ふ朝は
三  折過ぎてさてもこそ止め
四  おのがたゞ身を知る雨
五  出でさせ給ふはいづちぞ
六  殺してもなほ飽かぬかな
七  恨み絶えせぬ仲となりなば
八  人は草葉の露なれや
九  舟流したる海人とこそなれ
一〇 七夕に忌まるばかりの
一一 山を出でて暗き道にぞ
一二 気色吹くだに悲しきに
一三 秋のうちは朽ち果てぬべし
一四 君をおきていづち行くらん
一五 あやしく濡るゝ手枕の袖
一六 かしこへはおはしましなんや
一七 手枕の袖にも霜はおきてけり
一八 なか〳〵なれば月はしも見ず
一九 もみぢ葉は夜半の時雨に
二〇 すゞろにあらぬ旅寝
二一 頼む君をぞ我も疑ふ
二二 心々にあらむものかは
二三 文作る道も教へん
二四 なほざりのあらましごと
二五 昔語りは我のみやせん
二六 さりぬべくは心のどかに
二七 正月一日、院の拝礼
二八 まことにや、女御殿へ渡らせ給ふ

■解説
一 緒言 二 和泉式部略伝 三 為尊との恋 四 伝本考 五 作者考 六 文体考―「て止め」考察による作者考補説 七 新私解解説

参考文献 あとがき 和歌索引

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【自著解説】

 大らかな恋と歌の時代、平安朝。その化身とも言うべき女性、和泉式部が、数ある恋の中でも最もいとおしい、帥(そち)の宮、敦道親王との恋の成就の経緯を、美しい和歌とこまやかな心理描写で語りつくした、「和泉式部日記」。若い時から、一番好きな古典作品でした。七十余年を経て、自分としての注釈をお目にかける事ができますのを、本当に嬉しく存じます。
 平安時代は、男女が自由に楽しく交際し、魅力的な一人をめぐって挑みあい、まわりの弥次馬もそれを面白がって見物する、開かれた時代でした。もちろん、やきもちも、恋の鞘当てもありましたけれど、それだって会話の代りの「和歌」で表現する、美しい時代でした。この日記にはその会話の生き〳〵としたサンプルが、至る所にちりばめられております。
 錯雑する恋愛関係に疲れた和泉式部は、観世音に救いを求めて石山寺に籠ります。帰京をすすめる宮――敦道親王とのやりとりもすべて和歌です。「どうしたの? 出ておいでよ」「そんな気はありませんわ」「そんな事言わないで、まあちょっと......」「そんなら宮様、来て誘って下さいな」。宮は身分上、そうも行かないでいるうち、式部は帰って来ました。
   あさましや法(のり)の山路に入りさして都の方に誰さそひけん
――呆れたものだ。せっかくありがたい仏法の道に入りかけたのに、一体どんな男が都へと誘い出したのかね――とからかった宮に、女はただ一言、
   山を出でて暗き道にぞたどり来(こ)し今一度(ひとたび)の逢ふことにより
――悟りの山を出て、暗い迷いの現世に、手探(さぐ)りで出てまいりました。もうたった一度だけ、宮様にお逢いしたいばっかりに――。まあ、どうでしょう。ああ、かわいい......と、男としては抱きしめずには居られないではありませんか。
 この日記は、このようなウィットあふれる、しかも真情をこめた和歌の贈答で満ちています。それも、決してきれいごとばかりではありません。宮との出会い以前から続いている、女の男出入りの無責任なうわさに堪えられなくなっての対話、
   疑はじなほ恨みじと思ふとも心に心かなはざりけり
――私だって、疑うまい、こんな事で恨むまいと思うんだけれど、自分の心ながら思うようには行かないんだよ――。
   恨むらむ心は絶ゆなかぎりなく頼む君をぞ我も疑ふ
――「恨む」とおっしゃる、そのお心だけでも絶えないで下さいませ。限りなく信頼申上げている宮様でありながら、私も宮様を疑う気持をどうする事もできないのですもの――。
 こんな逆説的な愛の唱和が、世に又とありましょうか。しかもこれでふっ切れたかのようにすぐ次の段からは、真情とジョークをまじえたやさしい対話が続き、結末、女の宮邸入りへと導かれるのです。
 「和歌」というと、「ワカらない」と頭から敬遠なさる方も多いのですが、そんな事はありません。この日記の和歌を、声を出してなめらかに読めるまで読み味わって下さい。和歌はウィットのある会話だ、という事がおわかりいただけるはずです。現代語訳も、できるだけそのお手伝いができるようにつけておきました。
 「和泉式部日記」は、世界でたった一つの、男と女、二人だけの、葛藤も誤解も含めての、この上なく美しい恋物語です。拙い注釈ですが、これを通して、この作品を愛して下さる方がお一人でも増えましたら本当に嬉しく、そうある事を祈っております。


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