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2007年6月29日

 記事のカテゴリー : お知らせ

●小社・岡田「学術出版社とインターネット」

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月刊日本古書通信(2007/5/15号)に
小社・岡田が「学術出版社とインターネット」というタイトルで寄稿した全文を掲載いたします。

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学術出版社とインターネット


笠間書院
岡田圭介


 笠間書院は昨年6月、ホームページをリニューアルしブログにした(http://kasamashoin.jp/)。目指すところは「メディアとしてのプライドを取り戻す」こと。大きなテーマであるが、そのために情報発信のあり方を一から考え直してみた。

 以前のサイトは、ほぼ新刊紹介のみで、それも更新もままならず、長期間更新をしないままサイトを放置していることもあった。なので当然アクセス数など、ほとんど無いに等しい状況であったが、ほぼ毎日更新するようになった現在は、一日最低250人程度は訪れていただいている。

 国文学系の出版社を見渡すかぎり、「情報発信」を積極的に行っているところは少ない。この状況に立って行ったリニューアルである。ただ「情報発信」と一言でいっても、何を発信するのか。とりあえず、自社に入ってきた情報を、社内に対する情報開示の意味もこめ、誰でもが閲覧できるようにすることを目ざした。そして、それ自身を笠間書院のブログのコンテンツにすることにした。会社内部に滞留している情報を日々出していけば、笠間書院が何をしているか、本を買っていただいている人に見えてくるのではという思いがあったのと、情報は共有してこそ力を持つという信念に基づく。

 掲載している情報の主なカテゴリーは、【いただいた本・送られてきた本】【ホームページ紹介】【受賞図書】【学会・講演会・展覧会情報】【広告掲載情報】【新刊案内】【書評・パブリシティ情報】【笠間書院・学会出店情報】などである。【いただいた本】では、会社や社員に献本があった本を掲載し、【ホームページ紹介】ではインターネット上に公開された文学・語学研究にまつわる主なリソースを紹介、【広告掲載情報】では、広告を掲載した媒体を全て掲載した。社内には現状編集者が4名いる。だいたい他の人間が、どんな情報を得ているのかは分かるが、細かいところまではなんとも掴みにくかった。が、情報を集約したおかげでそれが解消されつつある。また営業を専任で行っている者がいないので、どこに広告をだしているかなども、社員全員が把握するのが難しかったが、そういったことも分かるようになった。社内の情報整理という点でも、ブログは有効なツールである。

 情報を発信しつづけているおかげで、逆にいままで入ってこなかったような情報、たとえば研究会に関するものなども得られるようになってきた。日頃お付き合いのある著者から、ブログに載せてくれと頼まれることも増えてきたし、いままで全く付き合いのなかった方からも情報をいただけるようになってきた。著者から献本していただくことも増えた。これらはすべて社員の財産にもなる。研究の現状の輪郭が掴め、企画のネタにもなるのだ。これは嬉しいことだし、また結果として、ブログが著者と読者と出版社を結ぶ「場」として形成されつつあることを実感している。こういった「場」は、以前には考えにくかったので、インターネットの恩恵をうけているなと思う。

 出版社の活動はもちろん、自らが刊行する本の内容、著者の選択をも含めて、それ自体がメディアとしての機能であるが、学術出版社の場合、それだけでは成り立たなくなってきたのではないか。研究が細分化されてしまっている(ように見える)今日、ただ本を出版しただけでは、著者の考えや仕事を世に広く流布させることが難しくなってきている(ような気がする)。そこで最近刊行した小松英雄氏の新刊『古典再入門』では刊行直後に、氏の考えを多くの人に知ってもらうため、いままで出した本を簡単に紹介してもらった『自著解説』というものをつくり、インターネットで配布した(のちに印刷物も作成)。かなりのアクセス数になったが、これがただちに購買に結びついたかは不明である。だが、こういった積み重ねが必要だと思うし、このような自社本に付随する情報発信については、今後とも積極的に取り組んでいきたいと思っている。

 先に掲げたテーマ「メディアとしてのプライドを取り戻す」とは、つまり情報発信者としての役割をきちんと自覚し、自らの専門領域にたいして責任を果たしたいということである。国文学の危機・衰退が叫ばれて久しい。あまり大きな枠組みでこの問題を考えてみても意味が無いので、研究者側の問題はさておき、出版社の立場から私が反省しているのは、いままであまりにも何もしてこなかったのではないか、ということだ。個人的な実感でいえば、もう十年以上もまえから「研究書」は、余程内容の優れたものでなければ、学術振興会や大学の出版助成なしで採算をとるのが困難になっている。そのことに胡座をかきすぎた部分はなかっただろうか。

つまり、助成金をもらえれば後は本にするだけで良い...といった意識である。「研究書」といえども、商業出版であり、原稿の中に面白さを発見して、多くの人々に知ってもらう努力をし、その考えや仕事を世に広く流通させることを目指さなければ、売れる筈はない。そこを真剣に考えずに、「売れない、売れない」と呟きすぎていなかっただろうか。流れ作業的に作り続けていなかったであろうか。もちろん「研究書」を出版することは、それだけで実に大変である。が、それはどの商売も同じなわけで、学術出版だけを神聖視することはできないであろう。まずは、本が売れる努力をしなければならない。これからの「研究書」の編集者に科せられる仕事は大きく、重くなるはずだ。きちんと売ることは、学問を活性化させる一番の近道であると思う。

 私は、そのための端緒としての、ブログ、インターネットと考えている。インターネットはしかし、相変わらずニッチな世界である。とてもリアルな世界の影響力には遠くおよんでいない。新刊案内は相変わらずダイレクト・メールの方が効果はあるし、笠間書院のサイトより、リアル書店のほうがよっぽど本を売っている。今のところブログは、現状はメディアとしてのトレーニングを積む場なのかもしれない。いずれこの成果を携えて、リアルな世界へ向かっていかなければならない。

 笠間書院のブログの現状は情報の羅列にすぎないが、集積されつづければ、そこには必ず意味が発生してくるはずである。だから当座、自らの専門領域に関する情報は出来る範囲で発信しつづけようと思っている。今もそうだがブログには、もちろん他社本の情報も掲載している。学界全体に益する情報発信に努めたいからである。そしていつか、国文学の情報を扱うメディアとして認められたいと思う。メディアとしての力をつければ、国文学の状況を少しずつ変えていけるのではないか。どんな情報を仕入れ、それをどのように伝えていけばよいのか。出版する原稿だけでなく、日々入ってくる情報に耳をかたむけて、それを効果的かつ広く伝播させる方法を、もっと考え抜きたいと思っている。インターネットは格好の練習場である。そして、いまよりもっと、メディアとして賢く怜悧に振る舞えるようになることを、夢想している。